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なんてことない帰り道
口数の少ない未藍の気持ちを、部員それぞれが思い遣った。
この“契約”が失敗に終わったら未藍はどうなるのか? 白猫伝説のお染さんは、1000年間も守神をすることになった。
かといって見知らぬ人との婚姻を受け入れるのも苦痛だろう。
「未藍、今日一緒に帰ろうよ。」侑香が声をかけた。
「うん。」
帰り道、侑香と未藍は無言でゆっくり歩いた。もしかしたら、あと5日で会えなくなるかもしれないのだ。
「ねぇ、私と2人で逃げちゃわない? 皆んな“契約契約”って言うけどさ、よく知らない“契約”なんかより私は未藍のほうが大事だよ。未藍が1人で背負うことないって! しばらく隠れてれば大丈夫だよ。逃げようよ!」
「ありがと、ユウ。私も……私も蓮に同じこと言った。でも神様から人間が逃げられる場所なんてないんだよ。それでも、もし私が逃げたら蓮はどうなる? 蓮が大変な目に遭うと思うよ。
だから逃げないよ。どうなるか分からないけど、蓮と一緒に乗り越える。」
「はぁーっ」侑香は息を力強く吐いた。
「なんか未藍、急に大人になっちゃったんだね。恋の力ってすごいわ。なんであんな暗いヤツと付き合うんだって思ったけど、一生に一度の相手に出会っちゃったんだね。過ごした時間の長さじゃない。寂しいけど。」侑香は涙で声が詰まった。
侑香の肩に両手をまわし、未藍がぎゅっと抱きしめた。
「ユウには、何度も助けられたよ。ずっと私の味方でいてくれてありがとう。何にも返せなかったけどユウの幸せを願ってる。」
「最後みたいなことい、言わない……でぇ。」
「必ず帰ってくる。だってまだまだ私たち遊び足りないから。」
この約束が叶うかどうか分からない。
それでも希望は口にしていたい。
「ごめん、未藍の制服に鼻水ついちゃった。」
泣いて赤くなった目で2人で笑った。
なんてことない1日が、こんなに貴重だなんて知らなかった。なるべく時間をかけてどうでもいい話をして過ごした。
できるなら、ずっとこのまま普通の女子高校生でいたかった。
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