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心のうち
「鈴木くん、用がなかったら久しぶりにどこか寄ってかない?」部活の帰り道、飛島隼は鈴木に声をかけた。
「あぁ、うん。
さっきは、大塚さんに悪いこと言ったなって反省してるとこ。用はそんぐらい。」
「じゃあさ。まずは、ぼくのカッコ悪い話を聞いてくれる? 」飛島はカバンを前に抱えた。
「大鳥女子のユリちゃんいたでしょ? ぼくが1年のときに付き合っていた子。
彼女のお父さん、飛島家にいじめられてさ、どこかへ逃げちゃったんだよね。
だから長女の彼女がアルバイトをして家計を支えてた。ユリちゃんがぼくに近づいたのは飛島家の人間だからなんだよ。
飛島家の人と付き合えば、これ以上悪いこと起きないかもって思ったんだと思う。
でも何もしてやれなかった。ぼくは叔父さんにいじめは止めてって言えなかった。情けない話だよ。
だから鈴木くん、何か悩みがあるなら相談して! 話を聴くくらいしかできないけどさ。鈴木くん家もユリちゃんの家みたいにならないか心配なんだよ!」
鈴木は飛島の告白に驚き、そのあと薄く微笑んだ。
「飛島はエライよ。あんなイヤな奴らとずっと付き合ってきたんだから。
自分は数週間で折れそうになった。いじめられると、すげーHP削られる。
そんで、爽玄に頼まれて部活の情報も渡してる。あ、渡してるつってもあんまり役に立たない情報だけどな。
なんで自分だったんだろうなって。なんで稗田部長でも瓜田くんでもなく自分がターゲットになったんだろうなって考えた。
稗田部長も瓜田くんも自分の軸がしっかりしてんだよ。好きなこともやりたいことも、しっかり持ってる。あの2人ぼっちになっても気にしなそうじゃん。だけど信頼できる仲間はちゃんと居て。
自分は周りと比べてちょっと上なら調子こいて周りより下だと嫉妬して、人ともそこそこの付き合いしかできないから相談できる相手もいない。だから狙われたんだなって、いろいろ反省してんだ。」
「そっか。鈴木くんはたしかに有能だよ。有能な上に軸なんてできたら鬼に金棒でしょ! 悪いのは飛島家で鈴木くんは悪くないよ。
実は母親から聞いた話なんだけど、この町で飛島に逆らう人たちが増えてきたみたいなんだよ。
あんまり良くないことだけど、遺跡傷つけ事件から飛島家関連の物や施設が狙われるようになって、飛島が嫌いで何とかしたい人たちがたくさんいるんだって気付いたみたい。
これから坂下町は変わるよって母親が言ってた。占い師だから当たる気がするんだよね。」
「ちょっと希望が持てた(笑)。そんで自分なんかより、稗田部長や大塚さんのほうがよっぽど重たいもん持ってるって分かった。蓮も。
自分は部活辞めてしまえば済むけど、部長たちは逃げらんないんだよな。」
「うん。ぼくたちが支えなきゃね。」
「だな。」
歩きながら話は済んだので、自販機に入ったばかりのホットおしるこを買って、
「あっちぃっ」「甘っ」と言いながら歩いた。
笑いながらも、5日後のことが頭を離れない。でも笑う。自分が作り出す不安に負けないように。
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