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あなただったんですか
資料室から全員が帰ったあと、稗田は教室に戻り1人で生玉の隠し場所について考えていた。
校歌は、多くの学校でも採用されている七五調で構成されている。七文字、五文字を繰り返えす詩だ。だが神之森の校歌は最後だけ字余りになり、全体で49文字となる。
昨夜そのことに気づき、手帳にメモしていた方法にあてはめてみた。
7マス×7マスの正方形の方眼に、1文字ずつあてはめる。そうすると、縦横斜めのどこかに意味のある文章が入っているという暗号隠しの手法だ。
しかし、意味のある文章は見当たらなかった。白鳥座が北十字星と呼ばれていることから十字に交わる中心の文字も拾ってみたが『い、わ、ま』では並べ替えても単語にならない。
考えを巡らせていると、誰もいない教室に3年の女子生徒がやってきた。彼女はたしか……名前が思い出せない。
「よかった、まだいたぁ。これ稗田くんに渡してって頼まれたから渡すね。じゃ、お疲れ様〜。」
ノートの切れ端を机に置くと、女子生徒は手をひらひら振って帰っていった。
折られたノート用紙を開くと『坂下高校裏、禁足地前で待つ』とだけ書いてあった。差出人の名前はない。
滝川先生だろうか? 何か分かったのかもしれない。でもなぜ言付けを? 先生ならぼくのメールアドレスを知っているはずだ。スマホが充電切れしたのだろうか?
カバンを持って急いで学校裏まで行った。
もう日も暮れ、この時間この場所に足を運ぶ人はいない。禁足地の暗さが気味悪く感じられた。そこに人の気配はない。
(いたずらか?)
そう思ったとき、暗がりから白銀の髪をした背の高い少年が姿を表した。
たしか、商業科3年の東京から編入した人だ。
彼とは話したことがなかった。
「はじめまして。こんなところに呼び出してごめんね。わたしは商業科3年の龍。蓮の双子の兄と言ったら分かるかな。あの件でキミと秘密の話がしたくてね。」
そう言うと稗田の手帳を持って見せた。
「あなただったんですか。」
「この手帳を返す替わりに、教えて欲しいことがあるんだよ。情報交換しようよ。」
「手帳を取らなくても、情報交換が必要ならば応じますよ。」
「ほんと? じゃあ、まずは“契約”の時間。そして人間の代表は誰なのか。」
「その前に、あなたが蓮くんの兄という証拠はありますか?」
「証拠ねぇ……難しいことを言うね。あそこに烏がとまってるのが見える? あれは蓮の密偵。この話も蓮に報告するんだよ。ずるいね、蓮だけそんな能力持ってて。」
稗田には暗がりの烏が見えなかった。龍が指さした方へ、じりじり進むと確かに枝に烏がとまっていた。
「分かりました。そこまで知っておられるなら信じてみましょう。」
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