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暗闇で見える心
蓮と龍は似ていない。髪が黒い蓮に対し龍は白銀だ。2人とも手足が長いのは共通している。龍は蓮よりも姿勢がよく華やかだ。二卵性の双子ならば似ていないこともある。
「時間は、夜の8時から9時頃だと思われます。人間の代表は決まっていません。場所を聞かれませんでしたが、すでに分かっているということでしょうか?」稗田が龍にたずねる。
「場所はたぶん足窪池でしょうね。飛島神社の宮司さんが見せてくれた地図に、カミナリ太鼓みたいなマークが書いてあったから。字はよく読めなかったけど彼岸って書いてあったよ。」
「やはり足窪池でしたか。カミナリ太鼓のマークとは三つ巴紋のことでしょう。
天と地と人が合う場所という意味かもしれません。」
「そちらに、人間の代表がいないと聞いて安心したよ。こちらには人の王になりたがっている人がいるからね。」
「それは……どなたでしょうか? 飛島神社の宮司さんじゃないですよね?」
「飛島? まさか。でも誰かは言えないよ。当日行けばわかることだから。」
稗田は不安だった。飛島家が“契約”に関心を持っている。彼らだって権力が欲しいはずだ。このまま黙っているはずがない。
人の王になりたがっているその人はなぜ“契約”のことを知っているのか? その人が人の王に相応しいかどうか、誰が決めるのだろう。
龍はクスッと笑い「そんなに変な人じゃないよ。権力欲はあるだろうけど、それが悪いことだとは思わない。」と言うと手帳をそのまま自分の制服におさめた。
「返してくれないんですか?」
「うん、もう少し。」
龍はかわいらしい声で応える。
稗田はこの際、気になっていることを単刀直入にたずねた。
「あなたは、政略結婚を望んでいますか?」
ずっと余裕に見えた龍がほんの少し動揺したように感じた。
「わたしはそのために生まれたんだよ。役目を果たす以外に、わたしの存在理由はないのだから。」
「政略結婚の相手が、蓮くんの彼女でも? 2人は想いあっています。」
「………… 蓮の彼女?」
龍は何を思っただろうか。稗田には分からなかった。そのまま“契約”の話をぷつりとやめてしまった。
帰り道、足元が見えないだろうと龍が稗田の手をとって学校まで歩いた。こんなに優雅に手を握ってくる人に出会ったことがない。
手から龍の感情が心に直接流れ込んできた。
--そして稗田は理解した、龍の本心を。
“契約”はうまくいくかもしれない。
稗田はこのとき思った。
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