生玉の在り処

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生玉の在り処

 滝川先生が見かけたのは稗田が灯したランタンの灯りだった。カーテンを閉め忘れた教室から明かりが漏れていた。  滝川先生に明かりを見られたことを、もちろん稗田は気づいていない。  生玉(いくたま)探しに時間はかけたくない。隠し場所として考えられるのは、松の根本と岩の根本だ。松の根はふだん土に埋もれている。岩の根本は本来なら池の水の中だ。隠すならちょうど良い。  稗田は1番確率の高そうな松の根本から掘り起こした。堂々たる松の盆栽に「ごめんなさい。」と謝りながらシャベルを入れた。根が張り巡らされている部分にはノコギリを入れ、根ごと切り落とした。  盆栽は根詰まりするため、定期的に根を切り手入れをするらしい。校長先生が亡くなってから10年の間、庭師によって手入れもされているだろう。  生玉があるとすれば、根のさらに下だ。  松を完全に取り出し、ビニールシートの上に乗せた。シャベルで岩の割れ目をさらに奥まで掘り出す。不自然な体勢のため足がつりそうになった。  カサッ! シャベルの先が土とは違う音をたてた。ランタンをかざして掘った穴の中を確かめる。土の間から梱包用のクッション素材が見えていた。  穴の中には片手しか入らない。手を精一杯伸ばして梱包用クッションに包まれたモノを持ち上げた。  中には15cmもない大きさの透明の玉。見たことのない文様が彫られていた。これが生玉だろうか? 透明な水晶の奥に何かが見えた気がして顔を近づけたとき-- ドアが開いて、誰かが中庭に入ってきた。
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