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なぜあの人が?
「派手にチラかしたな。」
稗田は、とっさに生玉を上着の中に隠した。
「蓮くん!! どうしたんですか?」
中庭に入ってきたのは蓮だった。
「烏がな。」
密偵烏がこちらを見ている。烏たちが何かを蓮に報告したらしい。
「もうすぐセンセーが来る。爺さんがオモテで待っているから早く片付けろ。」
蓮は松の盆栽を手にしていた。いまさっき稗田が取り出した松より若干見劣りする。掘り起こした土を戻し、その松を岩の割れ目にはめ込み復元した。
稗田は持ってきた道具を全てリュックに詰めこみ、用具室から持ってきておいたホウキとチリトリで散らばった土を集めて目立たない場所に隠すように置いた。用具室に戻っていると時間がかかる。連休明けにこっそり戻そうと思った。
仕上げにホースで岩の土を洗い流した。足跡もなるべく水で流した。水遣りをした後のように見えなくもない。
稗田と蓮は奥宮のお爺さんが運転するワゴンに乗って学校を後にした。ギリギリセーフだった。その数分後に滝川先生と男が学校に着いたからだ。2人は明かりが見えた1階を探したが誰かがいたような痕跡は見当たらない。中庭も暗い中では変わったように見えなかった。
「助かりました。ありがとうございます!」
稗田は蓮と奥宮のお爺さんにお礼を言った。
「あーぅっ」
奥宮のお爺さんが返事をした。顔を前に突き出し、夜道を走るので精一杯なようだ。
「先生に鉢合わせしたらと思うと、今になって怖くなってきました。蓮くんと烏くんのおかげです。」
「学校裏の林にセンセーともう1人男がいた。おまえと同じように松のあたりを探していた。」
「禁足地に!?」
思い当たる人物はオカルト研究部顧問の滝川先生しかいない。理由を考えたかったが今夜のいろいろで頭がいっぱいだった。
公園の広い駐車場にワゴンを停め、奥宮のお爺さんがやっと話せるようになった。
「車の運転は何年ぶりがの。オレの盆栽も役に立って良がったわ。カッカッ(笑)」
笑いながらも稗田の抱えている物が気になるようだ。
「まさが坂下高校にあるどはな。それを探してだどなるど、あの先生はやっぱし隠方がもしんねぇ。」
稗田は隠方という言葉を初めて耳にした。
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