稗田からの提案

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稗田からの提案

「この間、蓮くんの双子の兄、(りょう)くんに会いました。彼は“契約”通り、大塚さんと結婚するつもりです。しかし彼には好きな女性がいます。龍くんの手を握ったとき伝わってきました。  蓮くんと龍くんは双子なのに会話をしていないように見えます。話し合いませんか? 2人とも好きな人がいるのに“契約”のために別の人と結婚するなんて馬鹿げています。もっといい方法を考えましょう。」 「その顔じゃあ、いい方法が思いついでるみだいだな。」奥宮のお爺さんはいたずらっ子のような表情で言い、 「明日、一緒に龍の家に行こう。」と蓮は真面目な表情で賛同した。  蓮は、口数が少なく誤解されやすいが悪い人ではなさそうだ。それとも大塚さんと出会って変わったのだろうか? 蓮は以前より話しやすくなっていた。 --その頃学校では、滝川先生が学校の表玄関の鍵が開いているのに気がついた。 (やはり、誰かが忍びこんだようだ。)  自転車置き場に数台、置きっ放しの自転車がある。見慣れた稗田の自転車もある。  禁足地から明かりを見つけ学校まで30分もかからなかったはずだ。どうやったかは分からないが、稗田はおそらく神宝を見つけ、我々が着く前に鮮やかに逃げおおせた。 (俺には、資格がなかったということか。)  滝川先生はため息をひとつついた。  学校に戻り廊下にところどころ散らばった土や松の葉を取り除き、さらに稗田たちの残した痕跡を消して歩いた。せっせと後始末をする滝川先生は、いつもの穏やかな表情に戻っていた。
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