天と地と人とが会う

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天と地と人とが会う

 翌日、稗田と蓮は(りょう)の家に向かった。密偵(カラス)のおかげで、家の場所は蓮が把握していた。電話番号やメールアドレスを知らないためアポなしだが仕方なかった。  バスと電車に乗り、さらに歩いて10分ほど2人は会話をしなかった。蓮は世間話をする人ではないし、共通の話題となると“契約”にまつわる大事な話になってしまう。大塚さんとのことを聞くのも野暮な気がした。  龍の家は高校生の一人暮らしとは思えないほど立派な一軒家だった。入り口のインターホンを押すと女性が応対した。 「坂下高校の稗田と奥宮です。龍くんは居られますか?」 「少々お待ちください。」    しばらくして、玄関前の門の鍵がカチッと音を立てて開き、メイド服を着た20代前半の女性が家の中へ招き入れた。  綺麗に整えられた応接室に龍はいた。 「はじめまして蓮くん。稗田くんも今日はどうしたのかな?」 「蓮くんと龍くんに提案があって来ました。”契約”のことについて。」  龍はメイドさんに「席をはずしてくれる?」と優しく言うと、2人をソファに座るように促した。 「提案って何? “契約”前に関係者の談合はアリなの?」冗談ぽく龍は言った。 「ぼくには恋愛のことはよく分かりません。ですがこの間話した通り、龍くんの結婚相手は蓮くんの彼女です。このまま“契約”に従うのは間違っていると思います。  龍くんにも好きな人がいる。龍くんもその方と結ばれたいはずです。」  稗田は龍をまっすぐ見つめた。 「人の気持ちを勝手に断言するとは、稗田くんも強引な人だね。  わたしに好きな人がいる、だから? わたしたち双子は“契約”のために生まれ“契約”のために天と地に別れた。それを放棄して困るのは、あなた方人間でしょう? わたしたち双子だって契約を放棄したら戻る場所もない。それは共に手を取りあって滅びましょうと言うようなもの。」 「いいえ、滅ぶ提案ではありません。共に生きる提案です。」
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