嘘をつき続ければ

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嘘をつき続ければ

 ペテン師……。    爽達は呆然としていた。  地図と一緒に隠されていた家系図のことが頭に浮かんだ。自分が子どもの頃から聞かされてきた飛島家の経歴は嘘なのだろうか? ーー室町時代。  飛島神社は、雙星(そうせい)神社を分社し、盆地にある浮島に小さなお(やしろ)を建てたところから始まった。  当初の呼び名はわかっていない。  白猫の伝説から名前をとって、いつしか飛島神社と呼ばれ、しだいに参拝客も増えていった。  明治にはいり、神職の家に子が産まれなかったことから養子をとり跡取りとした。養子となった男子が神職につくと名を奥宮から飛島に改めた。明治期の神社制度の変革とともに、地域で一番大きな神社へと成り上がった。  ”飛島家は代々裏の権力者だった”と吹聴し始めたのは、その頃からである。  嘘もつき続ければ、本物になる。  飛島一族は政治や行政機関や商工会に入りこみ、このあたり一帯に影響力を持つようになっていった。  目障りなのは雙星神社だけとなった。  昭和後期に入り、山のリゾート開発を持ちかけ、御泊(おどまり)の宿を大金で買い取った。日本の隠里(かくれざと)として全国に紹介された御泊には、高速道路を通ってたくさんの人が訪れるようになった。  御泊の神を迎える風習は途絶え、雙星神社に通う権力者も一人減り二人減り、時とともに神社の存在感は薄れていった。  飛島家の嘘は完全に本物となった。  “契約”で物事が動き始めるまでは。
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