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龍はかなしい
坂下高校の世界史の先生が、東洋の龍について話したことがあった。
都会から田舎に引っ越してきた、美しい生徒をからかってみたかったのだろう。
「龍は好色といってね、牛と交わって麒麟を産み、猪と交わって象を産み、馬と交わって龍馬を産むと言うくらい見境がないそうだ。」
教室に笑いが起こった。
二木龍はRyoとう名で東京でモデルをしていたが、女グセが悪すぎて坂下町に連れて来られた。ということになっている。
これは半分正解で、半分は不正解だ。
人間の年齢で中学3年生のころ、地上の火明家に預けられた。
それまで龍は天で育ったが、神ほどの力は持っていない。“契約”のための特別な存在とされながらも力の無さゆえ半端者扱いを受けてきた。
特別扱いではなく大切にされたい愛されたい、その想いが強すぎた。
たくさんの女性と付き合ったものの、愛とは程遠い付き合いだった。連れ歩いて龍を見せびらかす女、アクセサリーや服のプレゼントをねだる女。満たされたことは一度もない。
ーーしかしそれは、過去の話。
今は住み込みメイドの華乃がいるので満足している。
「カノ、夕食は一緒に食べよう。」
「はい龍様。ご一緒します。」
「カノ、眠るまで手を繋いでくれるか?」
「はい龍様。もちろんですとも。」
高校生になって、何度か告白されたが誰とも交際をしていない。
「カノがいるから付き合えないよ。」
そう断ってばかりいたので美人メイドさんと2人で住んでるらしいと噂され、男子生徒からはオトナ先輩と一目置かれた。
噂は勝手だ。カノは素朴で優しい女の子だったし、カノとはそういう関係ではない。
女グセが悪かったのは事実だが、龍は“契約”のために坂下町に来たのだ。
地の神と人との間に生まれた女子と、自分との婚姻。逃れようのない宿命が待っている。
龍の満たされた日々の終わりは近づいていた。だから1日1日を大切に守るように生きている。カノと2人で。
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