超人ではないから

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超人ではないから

 次の日から稗田は、資料室で神之森(かんのもり)高校の校歌を探した。 ”人は強大な力に目が眩むど魔が差すがら、全部は知らんほうがいいのさ。”  祖父の言葉が気にかかっていた。 (この秘密は自分1人で持つべきだ)  平成の初めまで神之森高校という名前は残っていたようだ。  60周年記念誌を開き、校歌を読みながらカバン内側にある平らなポケットに手を差し入れた。  ポケットの中を右から左に手を滑らせたが、手には何も触れない。 (ない? )  祖父から聞いたことは手帳にメモしていた。家で読みこんで少しずつ記憶している。その手帳がなくなっているのだ。毎日持ち歩かず今朝カバンの内ポケットに入れてきた。念のためカバンの中を全て見たがやはり入っていない。  カバンから目を話したのは音楽の授業で移動したときだけだった。 (誰かに取られたのか?)  手帳に書かれた内容の大半は記憶していた。暗号に関しては覚えるのに苦労していた。歌や物語に編み込まれた暗号には決まった法則がなかった。  代々口承で伝えてきたものを書き残したのが間違いだった。ご先祖様のように一度で覚える超人能力を持っていたら……。  しかし、犯人探しをしている時間的余裕はなかった。落ち込んでいる時間も惜しい。  稗田が予想した通りなら“契約の日”は秋分の日だ。あと1週間も残っていない。場所と正確な時間すらはっきりしていないのだ。  祖父は暗号と言ったが、祖父の弟も暗号に詳しかったとは限らない。気持ちを切り替えて、校歌を読み始めた。    
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