緑深き森で

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「ほら、そこ。片眼がない女の人がいる。おいでおいでしてるよ」  そう言うと、里の子は揃って変な顔をした。片眼のない女が立つ草薮を見て、困ったように首を傾げる。そうして、みな口を揃えて言うのだ。嘘つき、と。  普通の人には視えないものが自分には視えるらしい。そうと気づくのに、時間はかからなかった。普通の人には視えなくて自分には視えるものを妖と呼ぶのだと、知ったのはもう少し経ってから。  みなには視えないもののことを話すと嘘つきと敬遠されるようになったため、極力妖のことは口にしないようにした。だが困ったことに、ナユタには妖とそうでないものの区別ができない。人と思ったものと話していると、それが妖だったりする。何もない空間に話しかけるナユタを、村の子は次第に畏怖の目で見るようになった。気がつけば、遊び相手は一人残らずいなくなっていた。  人との関係が疎遠になると、不思議なことに妖との関係が密になった。といっても、妖たちにとっては視える人間が物珍しいだけで、たいていはからかいの対象だ。時には傷をこさえるようないたずらをされることもあったけれど、話し相手がいることをナユタはただただ喜んだ。一人でいるより、妖と一緒にいた方が寂しくなかったから。  歳を重ねるごとに不可解な言動が目立つようになった娘を、両親は困り果てながらもあたたかな目で見守った。
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