緑深き森で

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 この世に生を受けた瞬間に、その赤子は余命宣告を受けた。  もともと丈夫でなかった母の第一子として生まれた赤子は、心臓に欠陥を抱えていた。生まれたばかりの赤子に医者が下した診断は残酷なもので、十の歳まで生きられないだろうというものだった。  一に零が一個つくことも許されない赤子に、ふた親は「那由多(なゆた)」と名をつけた。那由多は一のあとに零が六十個。零が一つつくことも許されない赤子にとって皮肉な名だが、那由多のように長生きをして欲しいという、両親の切なる願いであったのだろう。  冷たくなった両親の遺骸を見下ろしながら、ナユタはそんなことを思っていた。 「優しい人ほど早く天に召してしまうなんて、神さまもとことんいけずだね。ナユタ、心配しなくてもいい。お前は今日から、この里長の子だよ」  肩にあたたかな手を乗せる里長の言葉に、ナユタは心の底から同意した。優しい両親は、流行り病で呆気なくこの世を去ってしまった。ナユタを残して。どうせならナユタも連れていって欲しかったのにそれをしなかったのは、ナユタが優しくないという証拠だろうか。  欠陥があるのは、心臓だけじゃない。五つになったナユタは、何となくそれを理解していた。
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