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「ナユタ。いくら寂しくても、人との関わりを諦めちゃ駄目よ」
優しい手つきで髪を梳きながら、心配げに零す母親へ「どうして?」と尋ねたことがある。あの時、母親はこう答えたのだ。
「だってナユタは人だもの。人の世で、那由多の幸福を手に入れるの」
美しい母の顔が、悲しげに歪む。
幼いナユタは母親の言葉が半分も理解できなかったが、里の子と仲良くして欲しいと思ってくれていることだけは何となくわかった。母親を喜ばせたくて、ナユタなりに努力した。妖が視えても、視えないふりをした。子どもたちの輪に入れてもらおうと、必死になって追い駆けた。だが、ナユタが妖を避ければ避けるほど、やつらはそれが気に入らなかったらしい。よりによって里の子の目の前で、ナユタにちょっかいを出すようになった。
「人の子よ、我らが視えているのはわかっている。お前をのけ者にするガキ共など放っておいて、我らと共に森に行こうぞ」
「そうだ、そうだ。森には主さまもいる。あの方にお前を捧げたら、どれほどの褒美がもらえるのだろうな?」
くくく、と卑しく笑う妖たちに、気がつけば声を上げていた。
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