緑深き森で

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「二度は言わせるな。人間風情になど興味はない」 「はい、そうおっしゃると思いましたよ。しかし、我ら(あやかし)の姿が見える子どもとなればどうです?」 「返答は変わらぬ」 「あれま、そうですか。我らが見える人間なんて稀少ですからね、ここいらの妖はこぞって冷やかしに出向いているようですよ。暇潰しに、イヨさまもどうかと誘いに来たのですが……」 「俺は眠い。お前もくだらぬ話しかできないのなら、とっとと住処(すみか)に帰れ」  微睡みを孕んだ声に、ムラサキは小さな苦笑をもって返す。やがて聞こえ始めたかすかな寝息に、イヨは本当に寝入ったのだと知った。 (寝ている姿はまだまだあどけない銀狐だが、これでも悠久の時を生きる大妖だから恐ろしいもんさ)  旧知のムラサキ相手でも、警戒は解いていないのだろう。ムラサキが今ここで寝首を掻こうものなら、その銀色の双眸が瞬きを一つするうちに、この首はやすやすと落ちてしまう。
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