75人が本棚に入れています
本棚に追加
始まりの朝は、和風で。
何気ない朝が始まる。今日は、どんな朝ごはんにしようかな。そう考えるだけで心がワクワクする。
冷蔵庫を開けて中身を確認する。今日は、鮭を焼いて豆腐のお味噌汁かな。あと、卵焼きと納豆も一緒に食べよう。食べることにばかり、心を向けてしまいつい先日別れた彼のことを思い出す。
「お前ってさ毎回、ご飯のことばっかりだよな」
うんざりしたように、でも、切なそうな目で見てた彼。まだ、心の奥には好きだった気持ちが残っている。でも、朝ごはんを一緒に食べられない人とはやっていけない。
トントンという包丁の音に、心も躍りだす。もう別れた人のことなんて、みそ汁で流し込んでやる。そう思いながら、ネギを刻む。みそ汁にはネギ多め、これも絶対に外せないマイルール。朝ごはんを必ず取るもそうだ。
「大体さ、飲み会に遊び歩いて朝起きれないって学生じゃないんだから」
忘れると、思い込んだ矢先から彼のことばかり口から溢れる。毎朝これだ。いい加減忘れてしまいたいのに。
みその香りを胸いっぱいに吸い込めば、心が少しだけ落ち着く。それでも彼のことを思い出せずには居られず、乱雑に卵をかき混ぜる。
最初に約束を違えたのはあっちなのに、なんで私がおかしいみたいな言い草で振られなきゃいけないんだか。ご飯は体を作るんだよ? 血肉になるんだよ。大切にして当たり前でしょ。
熱されたフライパンに、混ぜすぎた卵を流し込む。ジュッという焼けてくる音と焼ける匂いに、冷静さを取り戻す。
今更考えてもしょうがない。美味しい朝ごはんを食べよう。焼けたシャケを取り出せば、艶々のオレンジ色に目を奪われる。
「今日も美味しそう」
食卓にコトンと並べて、手を合わせる。
「いただきます!」
そういえば、あいつはいただきますもいえないような男だった。シャケに伸びかけていた手が止まる。また、あいつのことばかり。
自分自身にうんざりしながらため息が出る。全部飲み込んでしまおうと、みそ汁を飲めばホッと一息つける。
「うん、今日も美味しくできた」
ふわふわの卵焼き。ネバネバの納豆。優しく包み込む豆腐のみそ汁(ネギ多め)、艶々に輝くシャケ。完璧な朝ごはんだ。
「はぁ、幸せ」
最初のコメントを投稿しよう!