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「私もスイ君も、井手っちのことを大事に思ってるの、わかるよね?」
「はい、それは伝わってます」
笑っていない目が、少しずつ垂れていって、いつもの江頭オーナーの温和な顔つきに戻った。
「何で大事に思っているか……それはね、井手っちにはパワーを与える能力があるからよ」
「パワー……ですか?」
「そう。私たちは、指でエネルギーを伝えるの。自分で自分を否定したら、それが指先に伝わって、そしてお客様に伝わる。そしたらそのお客様は二度と、サロンを訪れないわ。不満足に思うもの」
江頭オーナーの話を聞きながら、みなみは自分の指先を見つめていた。
もしかしたら……みなみ自身の施術によって、お客様を離してしまうのではないか……そんな強烈な不安が襲ってきて、指先に緊張が走った。
「だけどね」
「はい」
「井手っちには、人を元気にする力がある。井手っちが受付でお客様と話している時、気づかない間に皆笑顔になっているの。そういう人は、絶対立派なセラピストになれる、保証するわ」
江頭オーナーの熱い言葉にみなみの涙腺が緩むが、涙は落ちない。
その代わりに、緊張で震えていた指先に力が戻った。
「技術ももちろん大事だけど、一番大事なのはね、井手みなみというセラピストに施術をしてもらいたいって、思ってもらえるかどうかなの。絶対そう感じてもらえるという自信が私たちにはある、だから大事だと思ってる」
「オーナー……」
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