187人が本棚に入れています
本棚に追加
「”私なんか”っていうセリフは、井手みなみには似合わないわ。自分で自分を下げないで。自信があれば、コンペティションに優勝だってできる。私はそう思ってるから」
自信があれば、スイの彼女にも勝つことができる……。
みなみは今日限りで、『私なんか』というセリフを、封印することに決めた。そしてプライドを持って、施術することも心に誓った。
この瞬間から、みなみの世界が広がったみたいだった。
「オーナー、すいませんでした。私自信を持ちます! そして、このサロンにトロフィーを持ち帰ります!」
高らかに宣言したみなみの顔を見て、江頭オーナーの顔も気合が入ったように引き締まった。
かと思うと、すぐにその顔つきは崩れ、みなみの肩に寄り掛かるようにして話題を変える。
「それで、どうだったの? スイ君の彼女」
「もう、オーナー絶対聞くと思いました。どうって……すごい綺麗な方でしたよ」
「そうじゃなくて、大丈夫だったの? 井手っちは」
「え……」
あの日、みなみはスイの前で泣いてしまった。
その時のシーンが、江頭オーナーの言葉によって思い出される。
みなみが焦がれている人と、好き同士でいられることが、何よりも羨ましくて、歯痒さに苛まれて……堪えていた涙を抑えることができなかったのだ。
その時のことは、それ以来スイと話してはいなかった。
次の日からは、いつも通りの距離感に戻って接していた。
「私、泣いちゃいました。スイさんの前で」
最初のコメントを投稿しよう!