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消えるような声でみなみがそう言うと、内情を理解した江頭オーナーが、みなみの体を抱きしめた。
何も言わないまま十秒間抱きしめると、今度は肩に手を置いて、目線を下げたまま話し出す。
「井手っちは頑張ってる。大丈夫、大丈夫だからね」
大丈夫という言葉を何度も使って、みなみの背中を擦る。
そのメッセージに、みなみの苦しくなっていた胸も、徐々に楽になっていった。
とにかく、コンペティションで優勝すること。それ以外を考えたら、また胸が苦しくなる。
みなみは無理やりにでも、そう考えることにした。
「もう、オーナーしんみりさせないでくださいよ! せっかく前向きになったのに!」
「そうね、ごめんごめん。じゃあ今日も一日、よろしくね!」
江頭オーナーの掛け声によって、今日の営業が始まる。
二人で話した内容は、もちろんスイには内緒だ。
みなみはその後、午前に予約されたお客様に施術することができ、反応も悪いものではなかった。
お昼からスイが出勤し、その日のセラピストはスイにチェンジする。
今日は、サロンに全員揃った久しぶりの日だ。
「今日閉店後に井手っちの特訓したいんだけど、スイ君時間ある?」
「もちろんですよ、コンペティション近いですもんね」
そんなスイと江頭オーナーの会話が、バックヤードの方から聞こえた。
みなみは思わず、受付で作業をしていた手を止めてしまった。
スイと江頭オーナーの強力なサポートはとても心強いけど、どうにも緊張してしまう。
それを聞いてから、閉店までの時間は、あっという間に感じた。
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