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「よし、じゃあ始めてもらおうか」
スイがチェアに腰掛け、ゆっくりとリクライニングする。
みなみはセラピストとして、施術の準備を進めていた。
隣では、その様子をじーっと見つめる江頭オーナーの姿がある。
「井手っちの接客は言うことがないからね、施術の方をしっかりやっていくわよ」
スイの足に触れるのは、通算何回目だろうか。
みなみが学校に通っている間も、よく課題が出る度に足を貸してもらっていた。
踵にできた小さな魚の目も、今では見慣れたものだった。
緊張を抱えながらも、オイルのついた手で刺激を加える。
「井手っち、もう少し支え手をがっちりして」
「みなみちゃん、そこのポイントは強めでも構わないよ」
二段構えのアドバイスは飲み込むのが精一杯で、指の動きをまじまじと見られるのは恥ずかしいと感じてしまった。
まだまだ未熟なことに、恥と憤りを覚えた。
「でも全然いい感じじゃない? ねえ、スイ君?」
「はい、正直驚きました。だいぶ上手ですよ」
緊張で指が思うように進められていないと感じていたけど、どうやらみなみが思っているほど、ダメダメではないみたいだ。
結局その時間は終電近くまで続いて、全員が没頭していた。
数をこなすことで、指の動きが滑らかになったことを実感し、みなみはコツを掴んだ気になれた。
序盤に感じた悔しさもとっくに忘れて、ただただ施術の楽しさに満ち溢れている。
絶対優勝すると、みなみは心で誓った。
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