六章.サロン・ルポゼの新人ちゃん

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「みなみ君」  後ろから、どこかで聞いたことのあるような声が、みなみを呼んだ。  嫌な予感が、頭を過ぎる。  振り返ると、予想通り目つきの悪いあの男が、みなみの目の前に立っていた。 「こないだはどうも。ルルシュ渋谷本店、店長の樋爪です」  二階堂のハーブ園で知り合った、樋爪。  知り合った日から樋爪の印象はまるで良いものではなく、居心地の悪い気がしてならない。 「みなみ君、ライセンス取れたんだってね。とてもめでたいことだ。だが、一流を目指すなら適した環境に身を置くべきだよ」 「ちょっと樋爪さん、何が言いたいのよ」  横から、江頭オーナーが口を出してくれる。  喧嘩腰に立ち向かった江頭オーナーの反応を見て、江頭オーナーも樋爪のことが嫌いなんだと、みなみは簡単に把握することができた。 「これは失礼。まあ、このコンペティションではっきりわかるだろう。君はルルシュに来た方が成長するってね」  捨て台詞を吐いたその背中の向こう側には、今日出場するであろうルルシュのセラピスト達が準備をしている。  みなみの目線の先には当然、帆足優愛がいた。  間違いなく優勝候補で、みなみが倒さなければいけない相手だ。 「まったく失礼しちゃうわね。私昔からあの樋爪ってやつ大っ嫌いなの」  江頭オーナーの声は右から左へ流れ、みなみはユアの方を見入ってしまっていた。  みなみの強い目線を感じ取ったユアが、みなみに向けてニコッと会釈をしてくる。 「あれがスイ君の彼女ね。本当だ、綺麗な顔してるわ」 「オーナー、今は私のことを盛り下げないでください」  ごめんごめんと謝る江頭オーナーに、みなみは呆れ笑いを浮かべていると、肝心なことに気がついてしまった。 「そういえば、スイさんは……?」
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