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「あ、スイ君ね! なんか用事があって遅れるそうよ!」
急な問いかけに、驚いた様子の江頭オーナー。
はっきりと答えてくれたけど、目が泳いでいるように感じてしまった。
何かを隠している気がする……みなみはその何かを考えてみても、全く見当がつかなかった。
変な思考になるのを防ぐために、空気を読んで、今は触れないことに決めた。
「リフレクソロジー部門に出場のセラピストの方は、準備をしてください!」
進行役の女性が、フロア全体に聞こえるような声で叫ぶ。
その声で、みなみの身が引き締まった。
みなみは江頭オーナーから受け取った参加番号を握りしめ、施術を行う準備を始める。
「井手っち、私はこの先行けないから、頑張ってきてね! いつも通りやれば大丈夫だから!」
江頭オーナーの真っ直ぐな目を見つめながらコクッと頷き、リフレクソロジーエリアの方へ足を進める。
そのエリアにはチェアが二十台くらいあって、一斉に施術を始めるみたいだった。
施術を受ける審査員が二十名と、接客スキルを見て回る監察官が二人。
技術ポイントと接客ポイントの合計で争うということだ。
つまり、今回参加するリフレクソロジー専門のセラピストは、二十人ということになる。
みなみは、どうか良い審査員に当たりますようにと、心で願った。
「では、参加番号の書かれたチェアへ進んでください」
その合図をきっかけに、全員がこわばった顔で各々のチェアまで動き出した。
もちろんみなみも、ガチガチな顔で持ち場につく。
少し経った後に、ふくよかなスタイルのおじさんが、ゆっくりと近づいてきた。
「よろしくお願いします。これ、今日のシートです。コンサルテーションから始めてください」
「は、はい!」
まさか……こんなにいきなり始まるとは思わなかったので、みなみは取り乱しそうになってしまった。
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