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芝野宮は、息子を公務員にさせたかった。でも、実際に就いた仕事はエステティシャン。
公務員といえば、安定していて社会的信用度が強いというイメージ。
一方エステティシャンといえば、未だに女性社会のイメージが強い。
でも今の時代、そのボーダーはなくなりつつある。
スイの脳が活性化してきたタイミングで、席の横にあるお客様シートが目に入った。
パッと目に入ったのが、職業の欄に書かれている、会社員(役員)という文字だ。
そのシートの中で(役員)という文字が、同じ黒ペンなのに光輝いて見えた。
同時に芝野宮の思考が、なんとなく見えてきた気がする。
男は強くなくてはならない生き物で、それと同時に、自分自身は男に負けてはいられない。
芝野宮はそんな思いで仕事を続け、役員にまでのし上がったのではないか。
息子には、男として社会的地位を築いて欲しかった。
だがその願いは虚しく、むしろ真逆の世界に行ってしまった。
腑に落ちない生活の中で、たまたま出会ってしまった不運な新人の子。
つい息子と重ねてしまい、弱々しい態度に声をあげてしまう。
八つ当たりってやつなのか……これはその子の働きっぷりを見てないから、スイには何とも言えない。
男たるもの堂々と……母親からしたら、安定した道を歩いてほしいと思うのは、当たり前の考えだろう……スイは、自分の母親を頭に思い浮かべてしまった。
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