一章.サロン・ルポゼでハミングを

2/22
前へ
/197ページ
次へ
ーーここは東京。  青山通りを一本奥に入ったところに佇む小さなサロン。  狭い路地の中で、英国風のデザインをした外観は周囲から少し浮いている。  サロン内には、リクライニングチェアが一台だけだ。 "カランコロン" 「ずいぶんわかりづらい場所にあるのね」  扉についているドア鈴が受付に響く。  本日一人目のお客様が開口一番に放った言葉は、新規のお客様の決まり文句だった。 「ご来店ありがとうございます。わかりづらくて申し訳ありません」 「ここがリフレクソロジーサロンね。名前は……ルポゼだっけ?」 「はい、間違いありません」  受付カウンターを素早く飛び出し、スッと頭を下げる男。  名前は首藤 水(しゅとう すい)。サロン・ルポゼのエースセラピストだ。周囲からは、スイさんや、スイ君等と呼ばれている。  年齢は二十七歳で、セラピストとしては比較的若い方に分類され、茶髪のサラサラヘアーと愛嬌のある笑顔が特徴的だ。  だけど普段は、クールで陰のありそうな顔つきをしていて、そう思っていざ話してみると、意外と表情が柔らかく、笑うとえくぼを覗かせる。  そのギャップに、クラッとくる女性のお客様が後を絶たない。 「当店は初めてのご利用ですね?」 「ええ、そうなの」 「では最初にご説明からさせていただきます」  そう言ってスイはお店の説明、施術の説明を始めた。  内容はこうだ……。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

187人が本棚に入れています
本棚に追加