一章.サロン・ルポゼでハミングを

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・このお店は足裏専門のサロン。 すなはちリフレクソロジーのサロンということ。 ・リフレクソロジーとは、足裏にある反射区を刺激することによって、その反射区に対応した器官や臓器に働きをかけ、体の機能の改善を促すセラピーということ。 ・そしてこのサロンは六十分コース一本のみということ。 「ああ、銭湯とかにある足つぼの板みたいなやつね? 足裏に心臓とか腎臓とかいろいろ載ってる」 「それが反射区ですね。つぼと近いですが、当サロンは西洋式ですので痛みは伴いません」 「西洋式?」 「はい、指の関節や棒などで強く押すのは中国式や台湾式です。西洋式は反射区を指の腹で優しく刺激するので、ごゆっくり眠っていただく形になります」 「あら、そっちの方が良いわ」  少しずつ空気の重さが抜けていく空間。  スイは、お客様に安心感を持ってもらうことに長けているのだ。  一方で、スイの聞き心地の良い声に、隣で『うんうん』と頷きながら立っている女性の従業員がいた。  この女性の名前は井手 みなみ(いで みなみ)。スイよりも二つ年下で、このサロンの看板娘。  受付担当のみなみがスイに受付を取られてしまっている時は、何もすることがないので、こうやって微笑むしかないのだ。 「初めてのお客様には、こちらのシートを書いていただきます」  スイがお客様シートを手渡す。  お客様シートとは、新規のお客様に必ず書いてもらうシートのこと。  普段の生活の様子、お疲れの部位など、必要なものを記入してもらう。  スイは奥のリクライニングチェアに案内した後、胸ポケットからお気に入りの黒ボールペンをお客様に渡した。 「では書き終わる頃に戻ってまいります」  スイはそう言って席を離れ、再び受付カウンターへ戻った。
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