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「みなみちゃん、お疲れ」
「お、お疲れ様です」
お客様がシートを書いているこの時間を利用して、スイはたまに受付カウンターに戻ってくる。
大体戻ってくる時は、施術前の導入部分に手ごたえを感じた時だ。
みなみはこの時間が大好きで、この一時のために働いているといっても過言ではない。
「良かった、リラックスしてくれそうだよ」
「スイさんなら誰でもリラックスモードになっちゃいますよ」
「それ、褒められてるのかなぁ」
「もちろんです! 人を癒すお仕事なんですから!」
ふふっと笑う時に目が細くなる。
スイのその表情に、みなみは毎度癒されていた。
お客様カードを書き終えるまでは、大体五分くらいだ。
「書き終わりましたよー!」
席の方から飛んでくる声に、一瞬びくっとしながらも即座に笑顔を作るスイ。
「はい、ただいまお伺いいたします!」
そう言うと、気合を入れるように息を吐いた。
一回一回の施術が、スイにとっては勝負なのだ。
「ふぅ、じゃあ行ってくるね」
「はい! お願いします」
受付カウンターは、サロンの入り口すぐにある。
受付を通過してさらに奥に入ると、薄暗い中にチェアが一台。
薄暗く静かな空間の中に、みなみの好きな人は消えていった。
六十分後に、また会える……。
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