一章.サロン・ルポゼでハミングを

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「みなみちゃん、お疲れ」 「お、お疲れ様です」  お客様がシートを書いているこの時間を利用して、スイはたまに受付カウンターに戻ってくる。  大体戻ってくる時は、施術前の導入部分に手ごたえを感じた時だ。  みなみはこの時間が大好きで、この一時のために働いているといっても過言ではない。 「良かった、リラックスしてくれそうだよ」 「スイさんなら誰でもリラックスモードになっちゃいますよ」 「それ、褒められてるのかなぁ」 「もちろんです! 人を癒すお仕事なんですから!」  ふふっと笑う時に目が細くなる。  スイのその表情に、みなみは毎度癒されていた。  お客様カードを書き終えるまでは、大体五分くらいだ。 「書き終わりましたよー!」  席の方から飛んでくる声に、一瞬びくっとしながらも即座に笑顔を作るスイ。 「はい、ただいまお伺いいたします!」  そう言うと、気合を入れるように息を吐いた。  一回一回の施術が、スイにとっては勝負なのだ。 「ふぅ、じゃあ行ってくるね」 「はい! お願いします」  受付カウンターは、サロンの入り口すぐにある。  受付を通過してさらに奥に入ると、薄暗い中にチェアが一台。  薄暗く静かな空間の中に、みなみの好きな人は消えていった。  六十分後に、また会える……。
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