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「私は公務員になってほしくてね。大学まで行かせたのに、急にやりたいことができたって退学したのよ」
「やりたいことですか?」
「何になりたいって言ったと思う?」
「何でしょうか」
「エステティシャンだって」
決め台詞のような目の見開き方。共感を求めている時によくある表情だ。
スイは、無理矢理にでも芝野宮の表情についていく。
「それはそれは」
「ごめんなさいね。あなたに言ってもしょうがないわよね」
エンジンのかかったトークが、静かにブレーキを踏んだようだ。
これに乗じて、話題を変えた質問をする。
「お仕事は立ち仕事ですか? 座り仕事ですか」
この質問は、セラピストにとって定番の質問だ。
座り仕事か立ち仕事かで、体の疲れ具合が大きく違う。
「普段は座り仕事よ。デスクワークだけどたまに外出することもあるわ」
「ではPCや資料を見ることが多いですね」
「ええ、その通り」
「かしこまりました」
質問をしながら、反応のありそうな部位にチェックをつけていく。
デスクワークの場合は座りっぱなし、つまり腰への負担。
さらに、PCや資料の小さな文字を見ることによって起こる目の疲れ。
そして……。
「ん……? あの、イライラが止まらないとは?」
「ああ、それは……」
お客様シートに書いてあった気になる一文を、スイが拾い上げる。
ようやく触れられた指摘に対して、芝野宮は顔を俯かせながら、また静かに語り始めた。
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