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「新人の子がね、最近入ったのよ」
もう少しで十二月。
今時期だと中途入社の子かな……どうでもいい予想が一瞬、スイの頭の中を駆け巡った。
「その新人の子が、イライラの原因でしょうか?」
スイは何故か、申し訳なさそうに聞いてしまった。
芝野宮に対してか、その新人の子に対しての同情なのかは、スイ自身にもよくわかっていない。
「そうなのよ! 言われたことやらないし、なんかモジモジしちゃってさ!」
芝野宮は、急にエンジンがかかる性格をしている。
この数分の急発進で、スイはそう感じ取ってしまった。
「うちの息子みたいで男らしくないっていうかさ、男なら新人とか関係なしに責任持ってどっしりしなきゃダメよ」
「息子様と……」
「そうよ! あの子も男なのに女社会の仕事に就いちゃって! そういえばあなたもそうね。こういうサロンは女の人のイメージが強いけど」
「そ、そうですよね……」
つい苦い顔を覗かせてしまうスイ。
こういう時こそ気丈に振舞わなければいけないのだが、制御できずに表情を崩してしまった。
「あ、ごめんなさい。これもあなたに言っても仕方ないことね」
そろそろ施術へ移らないと、脳が興奮しきって、完全に休められる状態ではなくなってしまう。
芝野宮に軽い謝罪を受けた後に、スイはやや強引に話を着地させようとした。
「ではその新人の子が影響して、イライラが止まらなくなっているのですね?」
「普段からそればっかり考えちゃうのよ」
「かしこまりました、ではその点も注力して施術をさせていただきます」
「よろしくね」
芝野宮のペースに飲まれそうになったけど、スイはなんとか前置きを終えることができた。
シートを挟んだボードを横に置いて、いよいよ施術の準備を始める。
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