四章.サロン・ルポゼは定休日

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「あ、今日はありがとうね! またおいでよ!」  樋爪と話しているのにも関わらず、二階堂がまたもや空間を切り裂くように言ってのける。  みなみも、これくらいハートの強い大人になりたいものだと、少しだけ二階堂を尊敬してしまった。  スイは二階堂に一回だけ会釈をしてから、静かにレストハウスの扉を開けた。 「あ、みなみ君! コンペティションで会おう!」  樋爪が投げかけた言葉に見せたみなみの笑顔は、どう見ても苦笑いだった。  結果としては長居に巻き込まれなくて良かっただろう……みなみは心底ホッとしている。  ひと仕事終えて落ち着いている電車の中で、二人は今日のことを振り返った。 「ユアさんって、彼女さんですよね?」 「うん、まさかコンペティションに出るなんて、聞いてなかったな」 「あの、コンペティションって?」 「コンペティションはね、日本一のセラピストを決める大会のことなんだ。無作為に選出された試験官が施術を受けて、技術ポイントと接客ポイントを総合的に見て順位をつける。去年は俺が優勝したんだけど」 「え、スイさんさすが! 今年は出ないんですか?」 「結構疲れるからね。それにユアが出るなら尚更かな。競いたくないしね」  確かに、カップル同士争うのは、シンプルに考えて嫌なことだろう……みなみも想像くらいはできる。  でも、あの一流サロンでスイの彼女が勤めているなんて、みなみは全く聞いていなかった。  そう考えると、心の内で燃えてくるものがある。 「スイさん、そのコンペティション私も出られるんですよね?」 「え? まあ、資格が取れたらプロのセラピストだからね。来月の資格試験が受かったら出れるよ」 「そうですか、じゃあ私出るので。サポートよろしくお願いします」 「ええ!?」  ……外はすっかり暗くなっている。  景色は暗闇で全く見ることができず、窓にはみなみの発言で慌てふためく、面白いスイの顔が映っていた。
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