一章.サロン・ルポゼでハミングを

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 リクライニングチェアを倒し、ブランケットをかける。夏場は薄手な生地のものを、そして冬場は厚手なものを。  春や秋の微妙な季節は、お客様によって使い分ける。  今は十一月末。首から下の全てを網羅するようにかけるのは、厚手のブランケット。 「施術中ヒーリングミュージックを流すことができます。いかがなさいますか?」 「そうなのね、じゃあよろしく頼むわ」  席にセットしてある、CDプレイヤーの再生ボタンを押す。  サロン内全体に聞き渡るように流れる音楽。それは小鳥のさえずりや、小川のせせらぎだ。  薄暗い空間が、自然界に優しく変化する。  ボーカルのないヒーリングミュージックは、左脳を休ませ癒し効果が生まれるのだ。 「軽く足をお拭きいたしますね」  ウエットティッシュでリズムよく、足の甲、足裏、指の間と拭いていく。  左右拭き終えたら、施術開始。 「寒くはないですか」 「施術中何かあったら何なりとお申し付けください」 「では、早速施術を開始します」  施術に入る前は、必ずこの三点セットを伝える。  セラピストは小さな風呂椅子に座り、手のひらに百円玉くらいの量のオイルを垂らす。  施術は右足から、馴染ませるように触れていく。  オイルを足全体に広げるように、そして最初はほぐすように。  手の温もりを足に伝えて、手と足のご挨拶が済んだら本格的に施術が始まる。
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