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「では、足裏に刺激を与えていきますね……」
芝野宮の足裏に指の腹を優しく這わせながら、力を与えていく。足裏には、全身が反映されているのだ。
例えば、頭は親指、腰は踵周りという風に。
プランとしては、四十五分くらいでひと通り両足の施術を終え、残りの十五分は特に反応があったポイントを刺激するのが通例だ。
施術中は集中しているため、顔に柔和さがなくなってしまう。
スイはオーナーから、その点をよく指摘されるが、なかなか直せるものではなかった。
顔の硬さは、手から足へ伝わってしまうのだ。
それが、今のスイの課題でもあった。
「ふぅ……」
再度深呼吸をし、指を動かすスイ。
お客様は基本的に目を瞑っているが、たまに会話をしながら施術を受けたいお客様もいる。
芝野宮は目を瞑って、お休みモードに入るみたいだった。
スイと芝野宮の足しかなくなったこの薄暗い空間は、世界でたった一人の表現者になっているような気分になる。
目を閉じ、指を動かす。足の鼓動を指で感じながら一定のリズムで……まるで指揮者が音を感じながらタクトを揮うように。
この空間にも、スイはだいぶ慣れてしまっていた。
今年で三年目になったところだ。
最初は緊張して手も震えていたはず。
その緊張を隠し、なんとかやり過ごすことに必死だった。
でもお客様の足は正直で、緊張を足から感じ取り、サービスの不満を感じると、もう二度とサロンを訪れることはない。
現実は甘くないと悟り、そんな劣等感を抱えながら、スイは多くの施術を重ねてきた。
今は自信を持ってこの空間に座っている。紛れもないセラピストとして……。
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