六章.サロン・ルポゼの新人ちゃん

3/19
前へ
/197ページ
次へ
「はぁ」  このお店の主、江頭オーナーの前で堂々と溜息ができる自分を、みなみは怖ろしく感じている。  みなみの性格をわかりきってるオーナーが、背中をポンポンしながら、『相談乗るよモード』にスイッチした。 「何、今度は溜息? 嬉しそうだったり悩んだり、忙しい感情だね」 「すいません」 「それで、何かあったの? スイ君と?」  江頭オーナーはもう、みなみの悩みの種はスイであることを、十二分に把握しているみたいだった。  みなみも、それにいちいち反応することをやめて、素直に話すようになっている。 「実はこないだ、彼女さんがご来店されて」 「え、スイ君の彼女が? 店に来たの?」 「はい、ただスイさんに会いに来ただけですけど。私も挨拶だけしましたが、なんか勝てる気がしなくって」 「勝てる気? まさかスイ君を奪い取る気が出てきた?」 「違いますよ! コンペティションです。なんかすごい自信を感じられて、私なんかじゃ相手にならない気がしてきました」  いつもと変わらないネガティブ発言を漏らすと、急にシーンとした空気が広がった。  真剣になった江頭オーナーが、声のトーンを下げて話し始める。 「井手っちのこと、私は大好きよ。大好きなんだけど、一個だけ気に入らないところがあるの」  笑顔だけど目が笑っていない江頭オーナーの表情が、みなみの体に緊張を覚えさせる。  どうやら、みなみの気に入らないところを、江頭オーナーは今から面と向かって言うらしい。  みなみは、何を言われるかびくびくしながら身構えた。 「”私なんか”ってセリフ、使うのやめよっか」 「あ……そ、それは」  それは、このサロンに来てから、みなみが口癖のように言ってしまっていたセリフ。  特に江頭オーナーの前では、弱気な一面を見せてしまうところがあるため、多用してしまっていた。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

187人が本棚に入れています
本棚に追加