187人が本棚に入れています
本棚に追加
「はぁ」
このお店の主、江頭オーナーの前で堂々と溜息ができる自分を、みなみは怖ろしく感じている。
みなみの性格をわかりきってるオーナーが、背中をポンポンしながら、『相談乗るよモード』にスイッチした。
「何、今度は溜息? 嬉しそうだったり悩んだり、忙しい感情だね」
「すいません」
「それで、何かあったの? スイ君と?」
江頭オーナーはもう、みなみの悩みの種はスイであることを、十二分に把握しているみたいだった。
みなみも、それにいちいち反応することをやめて、素直に話すようになっている。
「実はこないだ、彼女さんがご来店されて」
「え、スイ君の彼女が? 店に来たの?」
「はい、ただスイさんに会いに来ただけですけど。私も挨拶だけしましたが、なんか勝てる気がしなくって」
「勝てる気? まさかスイ君を奪い取る気が出てきた?」
「違いますよ! コンペティションです。なんかすごい自信を感じられて、私なんかじゃ相手にならない気がしてきました」
いつもと変わらないネガティブ発言を漏らすと、急にシーンとした空気が広がった。
真剣になった江頭オーナーが、声のトーンを下げて話し始める。
「井手っちのこと、私は大好きよ。大好きなんだけど、一個だけ気に入らないところがあるの」
笑顔だけど目が笑っていない江頭オーナーの表情が、みなみの体に緊張を覚えさせる。
どうやら、みなみの気に入らないところを、江頭オーナーは今から面と向かって言うらしい。
みなみは、何を言われるかびくびくしながら身構えた。
「”私なんか”ってセリフ、使うのやめよっか」
「あ……そ、それは」
それは、このサロンに来てから、みなみが口癖のように言ってしまっていたセリフ。
特に江頭オーナーの前では、弱気な一面を見せてしまうところがあるため、多用してしまっていた。
最初のコメントを投稿しよう!