36.オレンジ・エンドレス

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 するとそれまでじっと海上ばかり見つめていた彼が、その時になって梓を見つめている。 「危ないよ、前を見ていないと」  時々前を確認しながらも、圭太朗がどうしてか梓になにかを言いたそうにしていた。 「どうしたの?」 「いや……、なんていうか……」  彼の目線が海上へと戻った。船長の横顔に戻った。男の顔だった。  その顔なのに、彼が船長の横顔のまま言った。 「港が見えてきた」  彼の目線へと梓も向けると、島の向こうに城下町が見えてきた。そして港も。  あっという間に日が昇り、海がまた青みを取り戻した。 「俺、梓と港に戻ってきた」  その意味が梓にもわかる。それは梓も。 「うん、私もだよ。圭太朗さんが言っていたように、暗い海を抜けて、朝の港に来たよ」  そしていま二人は一緒にいる。 「戻ったら、入籍しようか」  宇和島のご両親にも、宇部の両親にも、既にご挨拶は済んでいて祝福してもらえていた。  式は来年の春にする予定だったけれど――。 「うん、する。一緒になる」  同じ夜明けを見たから。同じ港に戻ってきたから。その気持ちが通じたから梓もそう答えた。
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