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「そうやって言われるようになったのも、三好堂の社員になってからだよ。フリーランスでやっていた時の俺なんて酷いもんだった……」
「そう見えません。フリーランスの頃からセンスがあって三好堂印刷に見初められて来られたのですよね」
ほんとうにそう見えるのに。でも本多先輩はそこで嫌なことを思いだしたかのように眉間に皺を寄せ黙り込んだ。
「お帰りなさい、梓さん。今日はどうだったの」
また琴子マネージャーが様子見にやってきた。おそらく、真田珈琲という大事なクライアントの仕事を、新人のような梓に任せてからどうなっているのか気になるのだろう。
そして、この気難しくてプライドが高い先輩がほんとうにアシスタントを指導できているのかどうか案じているのだとも梓は思っている。
「今日はこれ。どうだ」
また本多先輩が梓のスケッチブックを差し出した。
「わあ、懐かしい!」
「だろ。俺も子供の時に行った」
「私も行った! 海水浴場からも見えたものね。海水浴に来たのに、目の前に観覧車が見えるからあっちにも行きたい行きたいと駄々こねて」
「言った、言った。俺も兄貴と駄々こねたこと覚えているな」
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