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するとそれまでじっと海上ばかり見つめていた彼が、その時になって梓を見つめている。
「危ないよ、前を見ていないと」
時々前を確認しながらも、圭太朗がどうしてか梓になにかを言いたそうにしていた。
「どうしたの?」
「いや……、なんていうか……」
彼の目線が海上へと戻った。船長の横顔に戻った。男の顔だった。
その顔なのに、彼が船長の横顔のまま言った。
「港が見えてきた」
彼の目線へと梓も向けると、島の向こうに城下町が見えてきた。そして港も。
あっという間に日が昇り、海がまた青みを取り戻した。
「俺、梓と港に戻ってきた」
その意味が梓にもわかる。それは梓も。
「うん、私もだよ。圭太朗さんが言っていたように、暗い海を抜けて、朝の港に来たよ」
そしていま二人は一緒にいる。
「戻ったら、入籍しようか」
宇和島のご両親にも、宇部の両親にも、既にご挨拶は済んでいて祝福してもらえていた。
式は来年の春にする予定だったけれど――。
「うん、する。一緒になる」
同じ夜明けを見たから。同じ港に戻ってきたから。その気持ちが通じたから梓もそう答えた。
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