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このような状態だったため、梓の仕事が数日なにもなかった。
マネージャー女史が『好きに作品でも描いて、溜めておきなさい』と言ってくれ、仕事でもないのに途方もなくイラストを描いてすごしていた。
こんな、クラブみたいに好きなイラストを描けるのは楽しいけれど、まったくもって仕事ではない。他の仕事もさせてもらえないということは、戦力でもないということだった。
先輩がまた指示をしてくれるまで、梓はなにもしなくていいデザイナー。いまは、そんな状態……。
「梓さん、そろそろ真田さんがいらっしゃるから準備をお願いね」
滝田琴子マネージャーに言われ、梓も返事をして接客テーブルへ向かう。
そこに彼が仕上げたイラスト原稿をテーブルに並べる。お客様は『真田珈琲 真田輝久社長』。この街でいちばん人気の老舗カフェを持つ。
その自社で売り出す製菓の広告にパッケージをよく依頼してくれる。社長が指名するほどのお気に入りデザイナーが本多雅彦、梓の上司。
今回も彼が〆切直前になって、なにかが乗り移ったかのようにして仕上げたばかり。その原稿を真田社長が座る席から手にとってすぐに眺められる位置に置いた。
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