1.鉄子、スイッチオン

5/7
前へ
/374ページ
次へ
 梓はそんな先輩ふたりを後ろから眺めていていつも思う。すごい牽制し合って仕事の言い合いを激しくするふたりは、どこか戦友のようで同級生のようで、息が合いすぎている。でも男と女の匂い一切なし。どうやってこの関係を築いてきたのかなと不思議だった。  だけれど、梓も興奮! 「黒のセリカ――!」  そばに置いていたスケッチブックを開いて、窓に目を懲らして描き始める。 「おいおい、鉄子のスイッチがはいった」  本多先輩が呆れて、でも笑ってくれる。  琴子マネージャーもくすっと優しく微笑んでくれる。  だが、その黒いスポーツカーから降りてきた人を見て、また本多先輩と琴子マネージャーがハッとした顔になる。 「え、真田社長よ。いつもと車が違う……」 「もうひとり。運転席から降りてきた」  クライアントの真田社長が助手席から降りてきて、運転席から降りてきた男性は誰も知らない人。  真田珈琲の社長の車は、白のアルファロメオ。なのに今日は見知らぬ男性の運転で、その男性の車でデザイン事務所にやってきた。  本多先輩と琴子先輩が急に仕事の顔になる。ふたり一緒に事務所の玄関まで迎えに行く。梓もそのあとをついていく。
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2526人が本棚に入れています
本棚に追加