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「私のアルファロメオが故障してね。いまディーラーに出しているんだよ」
琴子先輩がやっと驚いた顔をして、本多先輩も『それで違う車で来られたんですね』と納得した顔になる。
「足がなくて困ってしまいましてね。婿の孝明もカフェを経営しているのでそうそう店から離れられないもので、久しぶりの郊外電車かバスかタクシーで行こうかと思っていたところ、ちょうど甥がうちの珈琲を飲みに来店していたので、連れてきてもらいました」
「まあ、そうでしたか。お車がないのなら、私がお迎えに行きましたのに」
琴子先輩がご苦労さまでしたと労うと、真田社長が笑う。
「そうでした。琴子さんのフェアレディZに乗せてもらえば良かったですね。たまたま甥が仕事が休みでうちの珈琲を飲みに来たものですから」
「叔父様のお店の珈琲がお好きなんですね」
琴子先輩がそう微笑みかけると、真田社長の後ろに控えている甥御さんは照れたように少しだけ笑み、会釈をするだけの静かな男性だった。
「そんな訳でして。帰りも足として連れて帰ってほしいので、本日は甥も一緒です。よろしいでしょうか。商売やデザインなどには無関心な男なのでそばに座っているだけです」
「もちろん、かまいません。さあ、どうぞこちらへ」
琴子マネージャーが事務所内へと案内をする。真田社長も慣れているから、自然とテーブルへと向かってきた。
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