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その雰囲気に緊張しながらも、梓はなにもできないアシスタントなのでお茶だけ置いてそっと後ろに退いた。
でも。あとひとつ。お茶を届けなければならない。その人は商談のテーブルにはついていなくて、事務所の玄関付近でうろうろしている。
「松浦様、よろしければお茶をどうぞ」
声をかけると、彼が振り向いた。
「ありがとうございます。これ、こちらのデザイナーさんの作品なのですか」
玄関先にデザイナーがそれまで手がけた商品パッケージなどを展示しているケースを置いている。彼がそれを眺めていた。
「そうです。先輩方がいままで手がけてきたお仕事です」
「ふうん。叔父の真田珈琲の商品も多いですね。あとはカメリア珈琲さんも……」
「どちらもお得意様なんです。特に、島レモンのおばあちゃんと呼ばれている興居島の二宮カネコさんが、本多のデザインを気に入ってくださったので、レモンの製菓企画があると真田さんからもカメリアさんからも依頼あるんです」
「なるほど。レモンのおばあちゃんが、あのデザイナーさんがお気に入りなんですね」
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