1.鉄子、スイッチオン

1/7
2486人が本棚に入れています
本棚に追加
/374ページ

1.鉄子、スイッチオン

  芸術家は気難しいというけれど、(あずさ)の上司にあたる先輩がまさにそれ。  クライアントから依頼されたイラストの仕上げにかかると、時間も気にならなくなるらしく、食事もしない水も飲まない、周りがハラハラする。  そんな彼が今回も渾身の作品を仕上げ、本日、クライアントにお披露目をする。  ああ、ここ二日。疲れた。せめて水分補給をと気遣って彼専用のブースに入ろうとすると『邪魔をするな』と怒鳴られる。でも彼の指示がないとアシスタントをしている梓の仕事がなにもない。  上司といえばわかりやすいから上司と知り合いには紹介するが、どちらかというと見習いイラストレーターである梓の指導先輩といったほうがいい。  でも彼はもう、この三好堂(みよしどう)デザイン事務所にやってきてから数々の実績を上げていて、いまやこの事務所の稼ぎ頭でエースと言われている。  なんでもこの事務所に来てから才能が開花したらしい……。だから、彼の仕事の邪魔をしてはいけないという暗黙のルールみたいなものがあった。
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!