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ユフの果樹園
西暦2182年。ユフ暦80年ともいう。
80年前にユフと名付けられた隕石が落ち、ユフに付着した微小なウィルスが世界に毒を振りまいて、あっという間に人の数は2/3まで減った。人は毒に抵抗するため、まず肺から侵入する毒を分解して無毒化するための触媒、酵素を作りだせるよう遺伝子を改変した。
けれどもそのころには、すでに世界はユフによって重層的に汚染し尽くされていて、濃縮されてしまった毒は多少の酵素じゃ中和できないレベルに達していた。
少し、間に合わなかった。
だから、僕らは酵素によってなんとか無毒化できた食物を口にした。つまり、僕らが食べられるのは人間だけだった。
肝心の酵素は人体の中でしか作れなかったから。
当初は改変を拒否する人間もいた。でも、ユフの毒は強力で、そんな人たちはとっくの昔にみんな毒で滅んだ。酵素がなければ、あっという間に体中が毒で汚染されて死んでしまう。
今生きているのは酵素を持った、100年前と比べて1/3ほどに数を減らした人間たち。
僕らはここ20年ほどでようやくバランスを取ることに成功して、人の数をほんの少しだけ増やすことができた。
人類の未来にほんの少しだけ明るい兆しが見えていた。
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