第六章 きっと、大丈夫

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「紡さん?」 上を見上げると、紡さんが宙に浮いている。その隣には幽霊の咲結も浮いていた。ふたりの姿はどうやら、椿と咲結にも見えているらしい。 「冗談……じゃないですよね?」 椿が紡さんに詰め寄るように言う。 「嘘ではありませんよ。……ほら」 そう言うと、紡さんは私の腕の傷に触れる。するとその手から金色の光が放たれ、その光と共に傷は消えていった。まるで最初から怪我なんかしていなかったみたいに、瘡蓋や傷痕すら残っていない。その腕が自分の腕ではないようにも、一瞬だけ見えた。 「え!?治ってる……」 なんだか、魔法でもかけられたみたい。驚きのあまり、三人そろって顔を見合わせる。それを見た紡さんと仁菜は嬉しそうに微笑みを浮かべていた。 「胡桃、未練解消ありがとう。約束、守ってくれたんだね」 真っ青な空の下、紡さん共に宙に浮いていた仁菜が嬉しそうな笑顔をして言う。それを見て、自然と顔がほころんだ。 「こっちこそ、頼んでくれてありがとね」 紡さんに霊感がない人にも、私が見えるようにと。 「何年親友やってると思ってんの?当たり前じゃん」 そう言って仁菜はクスリと笑う。 「じゃあ、逝こっか。一緒に」 手を差し出してくる仁菜。 もう……終わり? ここ17日間のことが昨日のことのように、鮮明に思い出せる。 大切な人を失った寂しさ。 中学の頃、仁菜と交わした約束を果たせれなたかった情けなさと申し訳なさと悔しさ。 新たに触れた人の優しさ。 持てるようになった、人を助ける勇気。 知らされた虐待という辛い現実。 夢を見せられたことで生まれた、強い決意。 そのすべてが忘れられない、日々。最後って言われても、未だに実感が湧かない。 けれど……。 終わってほしく、ない。 「ねぇ、本当に逝っちゃうの?」 寂しそうな顔をして咲結が言う。その瞳には大粒の涙が溢れていた。 私だって、寂しい。離れたく、なんかない。私の第二の親友に当たる人だもの。もっともっと一緒にいて、何気ない話で笑いあいたいよ。 胸の奥から欲求が溢れてくる。それを堪えようとしても、止められない。 でも……。 「ごめんね。逝かなきゃ」 私の存在は既に、完結したのだから。心残りがあったとしても、もう戻れない。 運命は、変えられない。 願いは、届かない。 「そっか。……仲直りできて、また話せてよかった。本当に、ありがとう」 終始嗚咽混じりに、咲結は言った。それから私に抱きついてきた。きっと最後の欲張りなのだろう。そうでなくとも、嬉しいのは変わらない。 「あの世に逝ったとしてもずっとずーっと、親友だからね。約束だよ」 耳元で囁くように咲結は言った。それから体を離す。それを見てから、隣にいた椿が口を開いた。 「胡桃と会えてよかった。俺を連れ出してくれて、助けてくれてありがとな」 照れ臭そうにそっぽを向きながら椿は言った。 「それから仁菜さん」 椿は仁菜がいる、上を向いて言う。 「はい?」 話しかけられた当の本人は、思いがけないことだったかのように目を丸くして、首を傾げている。
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