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「いじめたりしてほんとすまない。悪気はないから」
申し訳なさからなのか、顔を俯かせて椿は言った。それを聞いた仁菜は、首をふるふると横に振る。
「いいのいいの。本当に悪いのはあんたじゃないから。それに結局は全部解決したし。終わりよければすべてよし。みたいな?後悔も未練もないよ」
精一杯の笑顔を作り、仁菜は言った。それは嘘をついて強がっているような、そんな感じだった。
それが私の知る、本来の仁菜。弱音を吐くところなんて、全然目にしたことがなかった。
だからこそ……。
私からの最後の恩返し、させて。
掌を強く握る。それから椿の背中を強く押した。
それに反応した椿は大きく頷く。
「仁菜さん、俺のこと好きでいてくれてありがとな。ひどいこと、たくさんしたのに。気持ちは受け取った」
頬を赤く染めながら椿は言う。仁菜は信じられない、と目をぱちくりさせてから、私に困ったような笑みを向けた。
「もう、恥ずかしいじゃないの。胡桃ったら」
そう言う仁菜の瞳からは、涙の雫が溢れていた。きっと嬉し泣きなのだろう。
「でもまあ、ありがとね」
涙を小指で拭いながらぶっきらぼうな声で、仁菜は言う。その涙と、浮かべた幸せそうな笑顔に、自然ともらい泣きをしそうになった。
その近くで咲結と紡さんは、柔らかく微笑んでいた。
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