第六章 きっと、大丈夫

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「さてと、改めて逝こっか」 ひとしきり嬉し涙を流した後、仁菜は言う。それからもう一度、手を差し出してきた。 あの日、大木から飛び降りたりしなかったら……。今さらのように、寂しさと後悔の波に押し寄せられる。 でも、もう……終わり。 覚悟を決めるようにひとつ、呼吸をする。 それから仁菜の手に自分の手を重ねた。 幽霊同士だからか、やはり温かさとかは感じられない。氷のような冷たさだった。 仁菜は紡さんと顔を見合わせて、こくりと頷く。まるで、なにかお願いするように。それから口を開いた。 「なんてね。紡さん、あとはよろしく。胡桃、またあの世で会おうね」 いたずらっぽい笑みを浮かべながら、仁菜は言った。 また、あの世で? 一緒に、逝くんじゃないの? 私にはまだ、解消しなきゃいけない未練があるの? それとも……。 わけが、わからなかった。 困惑していると、紡さんがそれを察したように口を開いた。 「申し訳ありません。実は私達、胡桃様に嘘をついておりました」 頭を下げて紡さんは言う。 脳裏には、無数のクエスチョンマークが駆け巡った。 「今まで胡桃様は自分自身の未練解消をしていたはずですよね?」 確認するように紡さんは問いかける。わけがわからないまま、こくりと頷いてみせた。 最初は約束をして、次は人任せみたいになって、最後は未練解消とわかって。 でも……それは違うと言うの? 「はい。仁菜様のは、ほんとに本当の未練解消ですが」 混乱で思考が停止していく中、聞き耳だけを立てる。 「胡桃様に与えたのは、試練です。もう一度人間として、この世界に生き返るための」 淡々とした口調で紡さんは言った。そこでなんとか思考が動き、ひとつの答えが出る。 それって、まさか……。 「私、あの世に逝かなくて……いんですか?」 死ななくていんですか? 椿と咲結とまだ、生きてて……いいの? 「そうだよ、胡桃」 仁菜が言う。いかにも真剣な顔つきで。 「私は胡桃が自殺したと聞いた時、絶望したってこの前言ったよね?」 確認するような問い方。こくりと私は頷いた。 「生き返らせる。それが私の出した答え。最後の恩返し」 真っ直ぐな眼差しをこちらに向けて、仁菜は言った。 思えば丸投げしてたくせに、手伝ってるとかって言ってたら、矛盾しているのは明らかだ。
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