第六章 きっと、大丈夫

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「嘘をついたりしてごめんね。紡さんに頼んでみたら、試練を与えるって言われて」 しかし、あの頃の私は寂しさに溺れ、死にたいとさえ思い詰めていた。だからこの世界に生き返れると知っても、決して望もうとはしないだろう。 その上、仁菜に申し訳ない気持ちがある。 「その内容がね、私の未練と驚くほど一致してたってわけ。だから胡桃に全部任せることにしたの。そしたら胡桃は生き返れるし、いじめも終わるし、咲結と仲直りできるし、椿も助けられるしで、いいことづくしだなと思って。ごめんね。丸投げみたいになっちゃって」 この結末に満足感を覚えているような笑顔を浮かべて、仁菜は言った。 そんな……。 そりゃ今の私や椿や咲結にとっては、まだまだ一緒の日々を過ごせるわけだし、仁菜の言う通りいいことづくしなのだけれど……。 「それでいいの?仁菜は。誰も知らない人がいないところにたったひとりぼっちで、いくんだよ。不安じゃないの?寂しくないの?」 あの世とはどんな場所なのか。それは逝った人にしかわからない。だからひとりで逝くより、ふたりで逝った方が安心安全なはず。 もしかして仁菜は私達の幸せのために自分を置き去りにする気?そんなの……優しすぎるよ。 「全然」 首をふるふると横に振って、仁菜は微笑んだ。 「だって咲結と東山君、そして胡桃の幸せが私の幸せだから」 そう言う仁菜の笑顔はまるで、花開くように明るい。嘘や偽りない言葉なんだと悟った。 「本当によかったです。胡桃様が試練または仁菜様の未練解消を果たしてくれて。地縛霊が増えなくて済みますから」 紡さんが柔らかい笑みを浮かべた。それでも、胸のざわつきは落ち着きを見せない。 「胡桃。私は自殺しちゃいけなかった。本当は胡桃に相談して互いに支えあって、生きていかなければならなかった。そのことに死んでしまってから、気づいたの。遅すぎるよね。私達、小さい頃からの幼なじみなのに」 仁菜は私の両手を包みながら言った。それからまた、言葉を紡ぐ。 「だからね、これは自分を大事にできなかった、私への罪。せっかく胡桃は生き返れるんだから私の分まで生きてね。約束だよ」 そう言って自然な微笑みを浮かべた。その姿が透明になっていくのを見て、もう時間がわずかなのを知る。 寂しさに耐えるように唇を噛み、仁菜の両手を強く握り返した。 それから今できる最高の笑顔を、私から贈る。 「仁菜。本当にいろいろありがとう。私、精一杯生きるから」 仁菜の分まで。
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