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命はたったひとつだけ。
私は一度、それを無駄にしてしまった。
咲結や椿、まださよならも言えてない大切な家族を置き去りにして。
今度は後悔のないよう、笑顔で終われるよう、大事にしよう。そう、決意した。
私の言葉を聞いた仁菜は心から安心したような笑みを浮かべて、宙の彼方へと消えていった。
きっとあの世に逝ったのだろう。
空を仰ぎ見て、両手を合わせる。それから仁菜が心地よく眠れますようにと、ひそかな祈りを捧げた。
「さて、元の体に戻る前に私から、お伝えしたいことがあります」
仁菜があの世へ逝った後、神妙な顔つきで言った。
首を傾げながら聞き耳を立て、様子を窺う。
「私は以前、胡桃様に椿の過去を夢という形で見せましたよね?」
間違いないか、と確かめるような問い方。
思えばあれは仁菜の命令ではなく、紡さんの独断で見せられたんだっけ。
「それに結構、力を使ってしまって……次に目覚めた時、幽霊だった頃の記憶は消えてしまいます」
淡々とした口調で、紡さんは言った。
「えっ……?」
ウソでしょ?
思いもよらぬ言葉に思考が停止する。
忘れちゃうの?
仁菜と再会したことも、咲結を助けて仲直りしたことも、いじめを止めて椿を連れ出し、実の母に立ち向かったこともすべて……?
「それって胡桃だけじゃなく、私と東山君とその両親からも消えちゃうんですか?」
隣にいた咲結が聞く。その表情は、どこからどう見ても寂しそう。
「はい。残念ですが。普通は亡くなった人が生き返るとか、幽霊が人間を助けたとか、あり得ない話ですもの。なので消しざるをえないのです」
申し訳なさそうに頭を下げて、紡さんは言った。
確かに夢のまた夢のような話だ。虐待事件の事情聴取が近々行われると思うが、そんな話誰が信じてくれると言うのだろうか。
はたまた、罪にとわれ刑務所にいれられたり、おかしい人だと精神病院にいれられたり、しないだろうか。
胸の奥から重い不安がせりあがってくる。
それはさておき……。
「どうしてそこまで……?」
私達を助けようとしてくれたの?
「もし胡桃様が私が与えた試練をひとつも果たしていなかったら、今頃四人の運命はどうなっていたと思いますか?」
四人とはもちろん、私と咲結、椿そしてもうこの世にはいない、仁菜のことだ。
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