第六章 きっと、大丈夫

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記憶が消されてしまう……。 思い出したくても、思い出せないようにされてしまう。 この特別な17日間のすべての思い出が。 悲しい。虚しい。寂しい。 忘れたくなんか、ない。 そんな気持ちが胸の奥からせりあがってくる。 でも仕方のないこと。 込み上げる涙を堪えるように唇を噛み、無理矢理の笑顔を作った。 「私ね、胡桃が目覚めたら絶対にもう一度仲直りしにいくから……だから待っててね」 咲結が私の両手を包みながら言う。私はそれに待ってるよ、と大きく頷いた。 「あの……紡さんだっけ?ひとつ、いいですか?」 椿が手を挙げて言う。私と紡さんはなんだろうと様子を伺った。 「胡桃が次に目覚めたとき、胡桃はどこにいるんですか?」 どこか心配そうに彼は言った。 そういえば、公園の大木から落ちて死んだんだっけ。 なら元の体は起きたとき、どこにいるのだろう? 大木の下?  それとも……。 「どこでしょうか?それは私にもわかりません。こればかりは運命に任せるしかないですから」 困ったような笑みを浮かべて、紡さんは言った。 どう言葉を返せばよいのか、わからなくなった私は顔を俯かせる。その頭をポンポン温かい手がたたいた。まるで安心しろと励まされているよう。 「たとえどこにいたって、俺は胡桃を迎えにいく。だからそんとき、椿って呼んでくれないか」 そう言って小指を差し出してくる。 「わかった。じゃあ」 ____私達の、すべての始まりの場所____。 「紡神社で。約束ね」 小指を握り合わせると椿は「ああ、約束」と笑ってくれた。 その途端、私の体が目映いほどの白い光を放ち、透明になってゆく。 それを見た紡さんは「お時間です、胡桃様」と呟く。おそらくこれから元の体に戻るのだろう。 「少しの間、お別れだね」 「うん、また会おうね」 咲結が手を振って見送ってくれる。 「またな」 最後に椿はニカッと笑って見せた。 二人に見送られる中、静かに目を閉じた。 ____またね____。 空の彼方から仁菜がそう、囁いてくれる声が聞こえた気がした。 紡さん、仁菜。そして、この十七日間の記憶。 忘れたくない。 でも……いつかまた、会えるよね。 ____さよなら____。 そう呟いた途端、意識は途絶えた。
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