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記憶が消されてしまう……。
思い出したくても、思い出せないようにされてしまう。
この特別な17日間のすべての思い出が。
悲しい。虚しい。寂しい。
忘れたくなんか、ない。
そんな気持ちが胸の奥からせりあがってくる。
でも仕方のないこと。
込み上げる涙を堪えるように唇を噛み、無理矢理の笑顔を作った。
「私ね、胡桃が目覚めたら絶対にもう一度仲直りしにいくから……だから待っててね」
咲結が私の両手を包みながら言う。私はそれに待ってるよ、と大きく頷いた。
「あの……紡さんだっけ?ひとつ、いいですか?」
椿が手を挙げて言う。私と紡さんはなんだろうと様子を伺った。
「胡桃が次に目覚めたとき、胡桃はどこにいるんですか?」
どこか心配そうに彼は言った。
そういえば、公園の大木から落ちて死んだんだっけ。
なら元の体は起きたとき、どこにいるのだろう?
大木の下?
それとも……。
「どこでしょうか?それは私にもわかりません。こればかりは運命に任せるしかないですから」
困ったような笑みを浮かべて、紡さんは言った。
どう言葉を返せばよいのか、わからなくなった私は顔を俯かせる。その頭をポンポン温かい手がたたいた。まるで安心しろと励まされているよう。
「たとえどこにいたって、俺は胡桃を迎えにいく。だからそんとき、椿って呼んでくれないか」
そう言って小指を差し出してくる。
「わかった。じゃあ」
____私達の、すべての始まりの場所____。
「紡神社で。約束ね」
小指を握り合わせると椿は「ああ、約束」と笑ってくれた。
その途端、私の体が目映いほどの白い光を放ち、透明になってゆく。
それを見た紡さんは「お時間です、胡桃様」と呟く。おそらくこれから元の体に戻るのだろう。
「少しの間、お別れだね」
「うん、また会おうね」
咲結が手を振って見送ってくれる。
「またな」
最後に椿はニカッと笑って見せた。
二人に見送られる中、静かに目を閉じた。
____またね____。
空の彼方から仁菜がそう、囁いてくれる声が聞こえた気がした。
紡さん、仁菜。そして、この十七日間の記憶。
忘れたくない。
でも……いつかまた、会えるよね。
____さよなら____。
そう呟いた途端、意識は途絶えた。
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