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「俺、東山椿」
涙に戸惑う私を置いて彼・椿は自己紹介をしてくる。
「知ってる。私は西園胡桃」
「そうだったな。っていうか、眠ってるうちになんかあった?」
なんか変だぞ、と言いたげな口調。
眠りに落ちていた時、私はどこにいたのだろう。
思えば病院にいた頃、ずっとそのことを考えていた。
もしかして誰かに生き返らされたんじゃないか、なんてそんな非現実的なことあるわけがない。
「なんにもないよ。それより椿は何を願ったの?」
なんとなく問い詰められそうな気がしたので話題を逸らす。それを聞いた椿は少し呆れたように肩をすくめてから口を開いた。
「おやじが安らかに眠れますように、かな。あいつ、罪の償いのために死んだとか言うんだぜ。最初は腹立ったけどよ、おやじらしい理由だよな」
そう言った椿は空を仰ぎ見る。その様は亡くなったお祖父さんを思い出しているようにどこか、切なげだった。
「そのおやじさん、大切な人だったんだね」
「胡桃は?」
「へ?」
「胡桃は何を願ったんだ?」
それはもちろん……。
____仁菜の分まで強く生きるからこの幸せがなくなりませんように____。
完
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