016『マリアの企み』

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016『マリアの企み』

 まりあ戦記・016 『マリアの企み』     着地と同時にまりあはトリガーを引いた。  49体目のヨミを撃破したままの構えなので、光子ライフルは威嚇にしかならないと、みんなは思った。  コンソールの前のみなみ大尉は、それでいいと思った。  ヒットアンドランを繰り返していれば必ず勝機は訪れる。  ところが、まりあの放った光子弾はヨミのコアのど真ん中を打ち抜き、一発でヨミを無力化したのだ。  背後に気配を感じ、ライフルをぶん回しながらウズメを旋回させトリガーを引く。  引いた時には気配は、今の今まで向いていた後ろの正面に移動、ソニックソードがウズメの脚を薙ぎ払う。  足場にしている斜面の杉林がバラバラの幹や枝に切り刻まれ羽毛のように舞い散る。  旋回し終えたウズメは、精一杯ライフルを伸ばして射撃し50体目のヨミを撃破する。  しかし、ウズメの右足は膝から下が粉砕され、立ち上がって姿勢を制御するのに三秒のタイムロスをしてしまった。 「51体目にトドメを刺された、ウズメの敗北だ」  司令である親父が宣告して、ニ十分に及んだ戦いが終わった。 「でも50体までは倒しました。今までヨミが複数で攻撃してきたことはありません、勝利と判定して差し支えないと思います」 「大尉、ヨミは我々の想像を超えた変異体なんだよ。この程度の飽和攻撃に耐えられないようでは話にならない」 「……分かりました、搭乗員をリバースしたらプログラムの解析とチェックの用意。桜井君お願いね」 「了解しました」  サブオペレーターの桜井中尉にあとを頼むと、みなみ大尉はシートを立った。司令の姿はすでにない。  今日の訓練は、ダミーのヨミを数体ずつ増やして六回、最後は対応限界を超えた51体ものヨミを相手に行われた。  VR空間に作られたダミーとは言え、今までに現れたヨミをもとにプログラムされている、みなみ大尉ではないが、まりあはよくやっている。  力が入らない……。  リバースされた時に放心状態だったまりあが口をきいたのは四十分後だった。 「もう家に帰って寝る?」 「うん……もう限界を三つばかり超えて突き当たって落ちてしまったみたい」 「じゃ、コネクトスーツ脱いでジャージに着替えようか。なんなら先にお風呂? 一緒に入ってあげよっか、溺れるといけないから」 「とりあえず脱がせて……」  背中のジッパーを向けると、まりあはそのまま泥のように眠ってしまった。 「ケケケ、あたしの呪いが効いてきたようじゃないかい」  家に帰ると、血色のいいマリアが魔女のように言う。 「なによ、その格好は?」  まりあは一瞥するだけで言い返す力も無かったが、みなみ大尉が見とがめた。  マリアは魔女のようではなく魔女そのものの格好をしているのだ。 「やだなあ、今日はハロウィンでしょ! 観音(かのん)たちと渋谷2にくり出すの! じゃね!」  まりあが訓練中なので、学校にはマリアが代わりに行っているのだ。 「待て! そういう美味しいところは譲れないわよ!」  マリアを引き止めると、急いでマリアのコスを剥ぎ取るまりあであった。 「えらくあっさりと譲ったのね」 「もともとまりあに行かせるつもりだったし、アルバムの時みたいにバトルする元気もないようだから、ま、作戦」 「よくできたアンドロイドだ。こんど、わたしの作ってもらおうかな~」 「コスなら、まだあるわよ、ね、あたしたちも行こうよ! 年に一回のお祭りなんだからさ!」  みなみ大尉が作ってほしかったのは自分の影武者だったが、あえて訂正せずにハロウィンにくり出すことにしたのだった。
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