009『初めて嬉しい気持ちになった』

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009『初めて嬉しい気持ちになった』

まりあ戦記・009 『初めて嬉しい気持ちになった』      病院を連れ出されるとベースでの検査が待っていた。  舵司令の扱いがゾンザイだったので覚悟はしていたまりあだが、主計課の徳川曹長が根回しと準備をしていてくれたので、軍の装備品としてではなく十七歳の少女として扱ってもらえた。 「異常なし」  担当の軍医がMRIに似た検査台から起き上がったまりあに告げた。 「「よかった」」  まりあとみなみ大尉の声が重なった。 「異常が無いことが問題なんだよ」 「え、どういうこと?」  みなみ大尉の声がいささか尖がっている。 「ウズメのスタビライザーの信頼性は高いんだがね、あの状況で完璧に無事と言うのはあり得ないんだよ。仮に、ここに砲弾があったとする」  軍医がタッチするとモニターに150ミリ砲弾が現れた。 「この砲弾の炸薬を抜いてリカちゃん人形を入れたとする」  砲弾の中の炸薬がリカちゃん人形に置き換わった。 「で、発射された砲弾が射程距離一杯の30キロ先のコンクリートに命中したとする」  砲弾はモニターの中を飛び回り、カウンターの数字が30キロになったところでコンクリートの塊に激突した。 「さて、砲弾の中は、こんな塩梅だ」  砲弾が拡大されて、中が透けて見えた。 「人形はバラバラになり、着せていた服もぼろ布同然だ……これがコクピットから回収したまりあくんの服の断片。服がこういう状態なのに、まりあくんは気絶していただけだ……」 「「………………」」 「ま、今日の所は研究課題ということにしておこう」  検査室を抜けると徳川曹長が待っていた。 「大尉、申し訳ありませんが、当分まりあと同居していただきます」 「それはかまわないけど……まりあもいいわね?」 「はい、てか助かります。兄が亡くなってから一人暮らしでしたけど、やっぱ一人は……」 「それはよかった。実はもう、同居に備えて大尉の家、手を加えさせてもらいましたから」 「えーーー本人に無断で!? あたし一応未婚の女性なんだけど!」 「いや、ま、では、そういうことで」  小さく敬礼すると曹長はそそくさと行ってしまった。  みなみ大尉の住まいはベースの外のマンションだ。 「わあ、きれいなマンション!(今までのアパートの百倍すてき!)」  マリアは、車が曲がってマンションが見えてくると、ベースに来て初めて嬉しい気持ちになった。
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