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ある日 人形は不思議なモノを屋敷の前で見つけた。
空の端がしらばみ、軒先を明るく照らし出した頃、店の前を箒で掃いていた時だ。
朝日に照らされ それは道端に石ころのように転がっていた。
猫 だった。
ひどく汚れていたので濡らした布切れで身体を拭いてやると、土色の毛が真っ白のものへと変わる。
猫は人形の両手におさまる程細くなった雄猫だった。
布団にくるんでもふるえる猫に白湯を与えると、ちびちびと口に含んで、やがて猫は口を開いた。
「おまえさん人形か」
「はい。あなた様は猫さんですか」
猫は口端を上げ、笑った。
「こいつは驚いた。オレの言葉がわかるのか」
「はい。...おかしいのですか?」
人形が首をかしげると猫はゆっくりと白湯の入った皿に口をつけた。
「いいや、おかしいわけじゃないさ。
現にオレはあんたの言葉をちゃんとわかってる。」
猫は皿の水滴一つ残さずきれいに飲み終えると、寒いのか ぶるぶると体をふるわせ、
人形が布団をめくるとおとなしく中にもぐって頭だけを出した。
「...おかしくはないのだが」
猫は座敷の隅々に置かれた人形の顔を見回すように首を回し、最後に目の前の人形に顔を向けると
「動くのはお前さんだけなのかい」
と、問うた。
人形は頷いた。
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