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そうして猫にも星を一つ口に放り込んだ。
猫は驚いて目を見開き、口から星を吐き出した。
黄色い星は溶けることなく、コロコロと畳の上を転がった。
「あ...」
「な、なんだ。金平糖か」
猫はゼイゼイ息をして呟いた。
人形は星をつまんで猫に問いた。
「 こんぺいとう? この星は こんぺいとう というのですか」
「星?...あぁ、そうだよ。砂糖菓子の一つさ」
「砂糖菓子..?星ではないのですか」
そう言うと人形は声を出して泣き出してしまった。 涙はない。 ただ嗚咽と泣き声だけが響き渡った。
両手で顔を押さえる仕草がなんとも女の子らしい。
猫が肩まで飛び乗り、頬を舐めると人形の涙が止まった。しゃっくりをしながら濡れてもいない眼をしきりに拭く。
「...ご主人様が目覚めないのです」
やっとのことで言の葉を紡ぐ。
「ずっと..星に願っているのに..起きて下さらないのです」
猫が尾を人形の手に重ねる。
人形はそれを優しく掴んで、やっと顔から手を離した。
「わたしの名を教えて欲しいのです」
「名前なんてたいしたことではないさ。
オレは野良だ。名前なんぞ何度変わったか分かったもんじゃない。
大切なのは呼ぶ者だ。
...主人が起きないと言ったな」
人形はこくりと頷いた。
自分が作られ、目を覚ますとほぼ同時に主は倒れ、それから七日今の状態が続いていることを告げた。
「...そりゃあ、奴のせいかもしれねぇな」
そう言い猫は長い尾で空に円を描いた。
「町で有名なカラスのことさ。
そのカラスはもう百年も生きては妖力を得た。そして、それを保つためカラスは人の魂を喰うのだとさ」
「人の魂..?」
「そう。魂を喰われた人間は 空っぽ になるんだと。生きているのに生きられない。
かといって死ぬわけでもない」
無意味に時間を過ごすだけの代物。
誰から見てもやはり同じに見える。
人形にしか見えぬから 「人形病」 そう呼ばれる。
「...助けて貰った恩だ。会いに行くかい?」
人形は頷いた。
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